欠損ポエム

若木で出来た腕や、成熟した鹿のような脚は既に失われて久しかったが、エマニュエルはフィニの、芋虫のような身体もきらいではなかった。特に、抱き上げたときの、その身体の軽さが好きだった。こどもの頃を思い出して懐かしくなるのだ。成長期を迎える前のいとけない幼虫のように、今のフィニは何もできない身体をしていた。
その身体に、エマニュエルはようやく安心した。もうこの腕で、あの娘の頬を撫でることはない。もうあの脚で、あの娘の為に働くこともない。ベッドにくくりつけなくとも、もうフィニは孵化しない。ずっとずっと、己の手の中で這いずるだけの幼虫なのだ、と。
「えま、えま」と、暗い寝室から己を呼ぶかぼそい声が聞こえるので、エマニュエルは踊るようなしぐさで寝室の扉を開く。所在を乞う身体に「どうした?」と甘い声をかける。
「何が欲しい?排泄がしたいのか?それとも腹が減ったのか?」ああ、もうひとりでは何もできまい。おまえは俺を呼ぶしかなくなる、自らの成熟を誇りに思っていたのなら、それはすべて失墜したのだ。おまえはもう、俺にすがることでしか生きられない。誰にもすがられないのだ。
「殺して」「どうして?」「嫌だ、嫌なんです」「だめだ、許さない」おまえを絶対に許さないよ。そう歌って、エマニュエルは四肢を失ったその青年を丁寧に抱き上げ、誰が見ても献身と疑いようもない掌で、フィニの髪を梳いた。
悲鳴のような、嗚咽のような、そういった声がフィニのかみしめた歯の隙間から漏れ聞こえていたが、エマニュエルはもう、フィニに自死の覚悟などないことを、自身に縋って一生を終えるしか手だてがないことを、じゅうぶんに理解していたので、やはりその声を福音と聞きまがうかのような軽やかさで、フィニを寝室から連れ出していったのだった。

―――みずからこの喉をかき切れるならとうにそうしていた。舌を噛む勇気がないのは、あの人の手を、懐かしいと思ったからだ。