暴力凌辱わからせ輪姦

 部屋に入ってきた足音はひとつではなかった。
 男たちの重い靴の音、沈黙を切り裂く下品な笑い声、建付けの悪い扉がけたたましく開く音、反射的に身をこわばらせた少年の前に、大きな大きな―――本当に、その瞬間にひどく大きく見えたのだ―――3人の見知らぬ男と、よく見知った部屋のあるじが聳え立った。
「お、これが拾ったってぇガキか?」
「そうだ」
 見知らぬ男のひとりが立ち竦む少年に歩み寄って胸までしかない顔をしげしげと見た。むきだしの黄色い歯、酒の混じった生臭い吐息、雲霧街ですれ違えば身を縮めるであろうその粗暴が少年の痩せた顎を掴む太い指に現れる。酒を飲み大声を出し暴れる者たち。酒場で出くわしたときはなるべく物陰に身をひそめて、記憶に残らないようにするのに。少年の頭が恐怖と混乱に支配され、白い顔がますます青白くなっていくというのに、男たちはおかまいなしに少年を品定めし、あるいはもうさっさと飽きてしまって、我が物顔でソファに腰掛ける。
「なあ、名前はなんて言うんだ?」
「フィニ」
 声を出せない少年に代わって部屋のあるじ、エマニュエルが答える。
「フィニ、フィニね」
 かわいいガキじゃねえか。下卑た笑いを不快に感じ、少年はとっさに目を逸らした。
 どうしてこんな男たちを部屋の中に入れたのだ。少年はちょっぴり恨めしく思う。ほんの数分前まで、この部屋の中は少年にとってたいそう落ち着ける場所だったのだ。部屋のあるじにここにいることを許され、衣食住と、その対価として気まぐれに抱かれる日々にもだんだんと慣れてきた少年にとって、自分とエマニュエル以外の存在がいることは、ひどく不快だった。
 無遠慮な指が顎を離れ、うつむいた少年などおかまいなしに男たちは思い思いに過ごしはじめた。一様に酔い、機嫌よく大声で語らっている。ともあれこのままなら彼らは自分のことなど気に留めないだろう。野蛮な酒盛りをはじめようとする男たちからそろそろと離れようとしたとき、エマニュエルがこちらに手招いた
「おい、フィニ。おまえ突っ立ってないでこっち来い」
 たくさんの視線が少年を見下ろした。片手に酒瓶を持ったエマニュエルはずいぶんにこやかに、屈託なく少年を呼ぶ。少年が立ち尽くして動かないままでいると「酒を注げよ」と機嫌よく繰り返す。その声は普段よりも明るく、男たちと同じく酒に酔いしれていると感じられる類のものだ。
「お、フィニくんが接待してくれるのかい」
「こいつは酒場で働いてんだ。お手のものさ」
「そりゃいい。おれたちを慰めてくれよ」
「そうだそうだ。おまえみてえなかわいいガキがいりゃ、酒も進むってもんだ」
「そんなに愛想はよくないけどな!」
 けたたましい笑い声が響く。
「ほら、フィニ」
 やさしくうわべだけなでる声。
 フィニはしばらく唇を引き結んで、それから唐突に頭を振った。
「いや、だ」
 笑い声が止んだ。しん、と、部屋の中に沈黙が落ちる。
「俺、やらないです、」
 はやくここから立ち去らないと。リビングは男たちに覆われてしまったが、あのベッドの中、エマニュエルと自分が眠る場所で身体を丸めていればきっと大丈夫だ。エマニュエルは今日は機嫌が良いようだから、そう言えば「仕方ない」と言ってくれるはずだ。自分は嫌だとちゃんと断った。それならあとは好きにしていいじゃないか。頭の中で駆け巡るたくさんの言葉を順番に繰り返して、少年はおそるおそる背を向け、寝室のドアノブに手をかけた。
「フィニ」
 エマニュエルの唸るような低い声が耳元を犯す。
 どこまでも暗い、黒々とした影が少年の身体を包み込んだ。それは立ち上がる男たちから発せられ、ちいさな白いこどもの輪郭を埋め尽くし、今度こそ深い恐怖をしみ込ませる。少年は背中にぞっとするような冷たさを覚えた。
「…ぇ、ま…」
 ああ、本当にばかなこどもだね、と男たちが肩を竦め、それも目に入らぬ少年はエマニュエルからの宣告を待つ。「何を勘違いしているのか知らないが」ふう、と首筋に吐きかけられる吐息が、少年の身体を凍えさせる。そしてフィニは唐突に理解した。エマニュエルは酒に酔ってなどいない。ただその指の腹が少年のうなじを掴んだ。
「なあ—――おまえに断る権利があるとでも?」

 石畳に堆積した霜が、何もかもを灰に染め上げていた。日はとうの昔に山の向こうへ滑落し、人々は帰路を急ぐ。冬のはじめの寒気が開け放たれた窓から吹き込んでくる。しかしその冷たい風も、室内を包む異様な熱気を冷やすには到底至らない。
「うぶ、う、ぐ、」
 酒の空き瓶が転がる薄暗い室内には複数の人影があった。中央に置かれた粗末な机を男たちが取り囲んでいる。よく見れば机の上に縫い付けられるように、小柄な人影が横たわり、揺さぶられ―――犯されていた。
 成長期を知らないしなやかな痩躯が男たちの手から施される愛撫によってうねり、跳ねていた。薄暗い部屋の中で、唯一全裸の少年の身体だけが際立って白く、雪のようにきめ細やかな若い肌は、しかし男たちから施される愛撫の痕が赤黒く点々と付き、汗に濡れ輝いている。
「ぁあ、…ひぃ、ぃぃ、」
 裂けるほど開かれた股には、赤黒く使い込まれた陰茎が突き立ち、少年の身体を揺さぶっていた。少年の喉はひっきりなしに悲痛な叫びをあげる。
「もうむり…や…いぎっ…!」覆いかぶさるように、三人の男たちの乱暴な野次が飛び交った。
「もっと絞めろ!」
「おらっ、へばんな!」
「やだあ…!ひぃ、ゆるじ、ぃい、やっ、やだぁっ!」
 男たちの欲は尽きることなくちいさな少年に注がれる。折りたたまれるように曲げられ上から押し潰すように犯され、腹ばいにさせられ後ろから深く貫かれる。もう何時間もそうして少年の身体は嬲られている。
 鼻水と涙に塗れ歪んだ顔は、しかしただ苦痛ばかりではなく、快楽に溺れているのは明確であった。それは上気した頬だけではなく、少年の中心で勃ちあがり、ゆらゆらと揺れる小さな陰茎も示していた。しかしその陰茎は紐でぐるぐる巻きに縛られ、射精できないように拘束され、膨れ上がり紐を食い込ませるばかりか赤く腫れあがっている。
 ぐちゅぐちゅと音を立て、白く柔らかな尻から男たちの精液が泡立ち、溢れ出る。もう何度中に出されたか。狂乱は醒めることなく、少年の痩せた身体を抑えつけ、男たちは下卑た欲望を爛々と輝かせている。武骨な腕によってちいさな乳首を捻られ、少年の身体が仰け反った。
「いぎぃぃいっ!」
「締め付けてるじゃねえか!ご主人様のより気持ち良いってか?フィニくんは痛いのが好きだもんなあ?」
「まったくたいした淫乱だ、娼婦でもこんな感じてる奴いねえぞ?」
「おら、もっと喘げよ!」
「や、やぁ…ひぎっ…、がっ、ひぃ、いだ…い…っ!」
 ちいさな陰茎が痛々しく腫れ、紐を食い込ませているが、誰も気にも留めない。一方的に振るわれる暴力に、しかし少年の身体は熱を帯び、発散できないまま悶えている。欲望を少年の腹の中に叩き付けた男がずるりと陰茎を抜く。
 少年の肛門はすでに赤く腫れ、とろとろと精液を零し、性器のように艶やかに開いて男を呼び寄せていた。半ば白目をむきながら、しかし気絶しようとすると必ず誰かが少年の頬を叩き覚醒させる。そのせいで、少年は終わりない快楽の渦に引きずり込まれている。
「だいぶ緩くなってきたな」
「あーあぱっくりしちゃって」
「おい、次は誰だよ」
「俺だな。待ちくたびれたぜ」
「や、やだっ、もうやだ! むりっむりむりむりっ…あ”あ”あ”っー!」
 男たちの手から逃れようと机の上を這いずって逃げようとするが、太い腕が少年の腰を掴みずりずりと引き寄せたかと思うと深く突き立てた。内臓を突き上げられびくびくと仰け反る身体に男たちの嘲笑が沸き上がる。
「ぐっ、ぎっ、ひぃっあがっあ”っ」
「どこに行くんだよ!」
「あれか?ご主人様のとこか?」
「助けてほしいっておねだりしてみたらどうだ?やさしくしてくれるかもしれねえぞ?」
 髪を掴まれ無理やりに顔をあげさせられると、窓辺に腰かけた男と目があった。
 瞬間、息が止まる。
 翠の目がこちらを見ている。
 唯一、エマニュエルだけがこの狂った宴に参加していなかった。嫌がる少年を押さえつけ、飢えた男たちの中に少年を放り込み、「好きにしろよ」と言い捨てて、自分はただ、この部屋の窓を開けたのだ。
「あ”…あ、」
 未だ強情さを見せる少年を見遣り、つまらなそうに煙草を吸いながら、男はただ一言呟いた。
「顔は傷つけるなよ、売れなくなる」
「へいへい、もちろん」
 男たちは従順に頷く。その冷たい言葉に、少年の身体がびくりと震える。
「それにしてもよ、もったいないぜ。こいつを売っちまうのは」
「言うこと聞かねえやつを残してく意味はないな」
 なあそうだろ?と翠の片目がつまらなさそうに呼びかけると、大病を患った患者のように火照る少年の身体がみるみるうちに冷えていく。
 つまるところこれはエマニュエルから少年への躾だった。給仕をしろという言いつけを守らず、命令に従わず反抗した罰。ご主人様の命令に逆らった罰。少年はどうやらここ数か月の暮らしですっかり忘れていたらしい。そもそも自分には何を断る権利もないと。言いつけは必ず守らなければならないのだと。
 少年の身体に、心に、逆らったのは自分自身であると、だから罰を受けてしかるべきなのだと植え付けられていく。はじめは抵抗していた。唇を引き結び、破り捨てられるように服を脱がされても、痴態を見せ、はしたない言葉を口にするように求められても答えなかった。男たちはみな乱暴で自らの快楽しか求めず、少年には一方的な暴力が刻まれた。それでも毅然と耐えようとしていた。
 しかし射精を制限され、身体の奥に溜まる熱を発散させられぬまま最奥を突かれ続け、気づけば少年は喘ぎ、泣き叫び、みじめな姿を晒してしまっていた。それでも耐えようとしていた心を翠の目は見逃さず、少年の不安をあおり、最後の堰を越えさせようとしている。
「かわいそーに。捨てられちゃったねえ」
「ほら、やらしい姿ご主人様に見て貰いな」
「そうそう、すこしでも高値つけてもらえるかもしれねえし」
 呆然とした少年の身体の上を、男たちの言葉がすり抜けていく。
 腰を掬い体を折り畳み抱き上げた男が、緩くなった尻に再び陰茎を突き立てる。より深く貫かれた少年の身体が仰け反る。
「あぁっ!ひっ…!んぎっ…ぃ!」
 後頭部を掴まれ無理やり上げさせられた瞳が恐怖に見開かれた。
 そこには、残酷で冷たくて、人を貶めることを躊躇しない、他者を見下す瞳を持った男が立っている。人間を見る目ではない。家畜を、否、不出来なこどもを不用だと、これから捨てに行く者の目だと、少年は気付いた。気付いてしまった。
「あ…ああっ…え…えまっ…っ!」
 ずっと見られていると、指示を与えたのがわかっていても。他の男に抱かれ、穢れた姿を晒し、そして冷たい眼差しを注がれる。それは彼に忘れていた幼く弱い心を呼び覚まさせた。―――すなわち、庇護者に愛されず、孤独に、世界のすべてから捨てられるかわいそうな自分を。親兄弟に嬲られ、母親に捨てられた、ひとりぼっちのこどもの自分を。
「やだっ!やだぁ!みないで…っ!みないでえ…!」
「うお…っ」
「こら暴れんな!」
「やだぁ!」
 ばたばたと身を捩り暴れるがしかし少年のやわな身体は屈強な男たちによってなんなく抑えつけられた。机にしがみつき髪を振り乱すが、そうこうしているうちに挿入していた男がふたたび腰を振りたくると、ちいさな口から舌を出し、犬のように泣き叫び喘いだ。
 常人が見れば目をそむけたくなるような痛々しい光景だ。ただエマニュエルは黙って煙草をふかし、少年がとある言葉を放つ瞬間を待っている。
やがて、何度目かの絶頂の後に。
「えま、えまぁ…して、んっ、あっ、ゆる、してぇ…、」
「ん?」
 ちいさくか細い懇願に、エマニュエルは小さく首を傾げた。
 わざと聞こえない素振りを見せる姿にはらはらと涙を零しながら、しかし少年は必死に顔をあげ、男を見上げた。
「えまっ…うぐっ、んっ、あっ、ごめっ…ごめんなっ、さい…っん…もぉ…っ…逆らわないからぁ…」
「ーーー」
 エマニュエルが煙草の燃えさしを窓枠に押し付けた。
 合図に、男たちが少年の身体を凌辱する手を止める。陰茎の抜かれた尻穴からごぼりと音を立て、泡立った精液が流れ落ちた。
「うぅ…え、ま…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさ…」
 うなされたように同じ言葉を繰り返し、ずるずると崩れ落ちた身体に男の大きな影が近づくと、涎と汗に濡れた顎を長く美しい指で掬い上げた。
「っ!」
「フィニ」
 開かれた唇が少年の名を低く囁いた。
 ゾッとするほど美しい相貌が氷のような冷ややかさで怯えた蒼の瞳いっぱいに映り込む。髪の隙間から見える失明した瞳すら意思を持って少年を睨みつけた。
「俺がてめえを拾わなきゃどうなってた?今頃病人ばかりの売春宿行きだ。一日中色んな男に抱かれてあんあん喘いで腰振ってザーメン飲んで自分を豚以下だと貶めて、最期は家畜のエサにされるか?そんな風にはなりたくねえんだろ?」
 濡れた頬を撫ぜるその声は低く歌うように柔らかいが、投げられた言葉の悪辣さに少年の心が引き攣った。細い喉から声にならない悲鳴がこぼれ落ちる。どんな男に抱かれるよりも、どれほどの屈辱を身体に刻まれるよりもその言葉がいちばん少年の精神を意地悪く貫いた。
「ひ…うぅ…」
「ガキが。逆らうなよ」
 エマニュエルが腕を離すとどっと崩れ落ちた身体が冷たい机の上でひくひくと痙攣した。
 顔を歪ませ、ぼろぼろと泣き崩れる少年がうわごとのように言葉を繰り返す。
「ごめんなさい、ごめん、エマ、なんでもするから、だから、だから許して」
 折られてしまったプライドが情けない服従を望んだ。毅然と男たちに立ち向かい、逃げ出そうとした姿はもうどこにもない。身体の節々が痛む。限界だった。痛みよりも屈辱よりも何よりも、彼に捨てられるのが耐えられない。
 すすり泣く少年を見下ろすと、エマニュエルは男たちに向けてひらひらと手を振った。
「おまえら、帰りな」
 三人の男たちはそれを聞いて従順にうなずいた。身体を頽れさせたフィニには男たちの顔など当然見えない。数時間前、酒場でエマニュエルが男たちの耳元で、自分の家にこどもがいるから抱かないかと囁いた。言いつけを守らなくなってきたこども、おまえたちもきっと楽しめるだろう。悪夢のような取引の後、いくばくかの金がその身体と引き換えに懐に入ったのだと、フィニは知らない。
「じゃあな、フィニちゃん」
「よかったぜ。またヤらせろよ」
「そうそう、こわ~いご主人様より優しくしてやるからよ」
 下卑た笑い声をあげる男たちが扉を開き出ていった。ばたん、と音を立てて閉まり、残されたのは机の上に腹ばいになり傷ついた顔を切なく歪ませた少年と、それを見遣るエマニュエルだけだった。
 指先が汗と精液で濡れた脇腹をなぞると、それだけで過敏になった少年の身体にぞくぞくと鳥肌が立つ。
「あーあ、汚ねえなあ」
「ごめんなさい…エマ…ごめん、なさ、い…」
 吐き捨てる言葉にもはや機械的に謝ることしかできなかった。脇腹を両手で掴み机の上に身体を起こさせられる。精液の生臭さを漂わせながら、少年ははらはらと涙を零してエマニュエルの身体に縋りついた。
 その中心が未だ勃ちあがり、所在なくぶらぶらと揺れているのを認めると、長い指先で先端に触れた。透明な雫を零す陰茎は触れられたことに喜びびくりと跳ねる。エマニュエルは喉をくくと鳴らした。
「あんなに沢山咥えさせて貰った癖に、まだ足りねえって?」
「た…たり…足りない…足りないの…」
「イケなくて辛かったか?」
「つらかった…エマがいい、エマがいいよぉ…もう、いたいの、いや…」
 首に腕を回し縋りついて少年はめそめそと涙ぐむ。生意気さはなりを潜め、幼児のようにいとけなく泣く姿は哀れだった。陰茎を締め付けていた結び目をほどき、紐を外すと、腰を擦りつけて刺激を望む。エマニュエルが厚い掌で根元からなぞりあげ扱くと、ちいさな身体は軽々飛び上がった。
「気持ちいいか?」
 亀頭に爪を立て、ほじくるようにぐにぐにと揉むと、呆気なく、抑えていた精液がぴゅるぴゅると零れ、エマニュエルの掌を汚した。
「淫乱」
 嘲る声にも言葉を返さず、力なく縋り、はふはふと息を吐き、少年はむずがるように額を男の首に擦りつけた。もう淫乱でも何でも良い。あたたかくてたくましい男に拒絶されることもなく身体を委ねて何もかもが分からなくなってしまいたい。自暴自棄な心が少年の心を支配している。
「舐めろ」
「ん…」
 汚れた掌を唇の前にかざすと、赤くちいさな舌を出し、うつろな目をした少年は己の精液を舐める。恵まれたこどもたちが甘い飴を転がすように、痩せた貧しい少年は男に媚びなければならない。それもエマニュエルが少年に教えたことだ。それは隷属の証だった。
「尻出せ」
 どん、と少年の身体は突き飛ばされて机の上に転がった。よろよろと四つん這いになり、尻だけを上に掲げた屈辱的な姿勢を取る。くぱくぱと埋められることを期待する穴が女陰のように濡れて男を求めているのを笑う低い声が響き、やがてそこに熱く硬いものが押し付けられると、少年は高く浅ましい声をあげた。
「あっ、あ、」
「―――っ」
 先端にちゅう、と甘やかな肉壁が吸い付いた。待ち焦がれていたものが入ってくる。それは緩くなったはずの穴をみしみしと広げ、隙間なく埋める。熱くさんざん嬲られてすっかり潤ったナカは喜びに蠢き、萎えた筈の陰茎からは押し出されるようにとろとろと精液がこぼれ落ちる。あの男たちとは違う。ぜんぜん違う。どこが一番感じて、どこが気持ちいいか知り尽くした身体が、少年の性感を的確にとらえる。
「あっ、あんっ、きもちいっ、きもちいいよぉっ」
 深い挿入にぼろぼろと涙を流しながら、猫のように喘いだ。身体を後ろにねじって口づけを求めると、エマニュエルが唇を塞ぐ。精液の苦みが残った口内に、煙草の残り香交じりの唾液が流し込まれる。分厚い舌を追うようにこくこくと唾液を飲むとどこか甘くかんじて頭が呆けてしまう。残酷な言葉と対比して、その行為は意外なほどやさしくて胸がいっぱいになった。全身が征服されることを喜んでいる。支配を望んでいる。
「ああァあっ!ひぐっ!きもちいっ!あァッ!」
「フィニ」
 喉まで仰け反らせて喘ぐ少年の耳に、脳髄を蕩かす声が響いた。
「忘れるなよ。俺がおまえを拾わなきゃ、おまえは生きていけなかった」
「ふぐっ、あゥッ、ああんっ、あっ!あんっ!」
「俺に従え。そうしたらずっとこうして気持ちよく抱いてやる。おまえを上層のどんな女よりも可愛がってやる。おまえはどこまでも堕落して、浅ましく啼いているのがいちばん似合う」
「あっん、んっ、んぁっ、あっ」
 呪いのように、少年の蕩けた脳に男の言葉が刻まれる。それは初雪を踏み荒らすこととよく似ていた。石畳の上に濡れる細雪が土に黒く穢れるように、少年の身体に凌辱を残す。幾度かの絶頂に鹿のようにしなやかな脚がつま先までピン、と伸び、痙攣を繰り返す。白く細い首筋に点々と鬱屈痕を残しながら、エマニュエルは少年の最奥に欲望を押し込んだ。
 蒼い瞳に支配が焼き付いた。閉まった扉はもうしばらく、他の誰かの手で開けられることはないだろう。部屋の中はふたたび、少年にとって安堵できる場所になった。—――そうだ、エマニュエルに従っていればいい。彼のもとで従順に、主人と思っていたら、そうしたらもう、怖いことなんて起きない。気絶するほんの数秒前に少年はそう思い至り、ひきつった微笑みを浮かべそうして意識を手放した。